みなさんこんにちは。SaveExpats広報です。
SaveExpatsは、海外駐在員が安心して現地で活躍できる環境づくりを目指して活動しています。このコラムでは、駐在員を支える海外人事の皆様に向けて、日々の業務に役立つ情報をお届けしています。
さて、実務のポイント第5回目は、「駐在員特有の制度」について見ていきたいと思います。
日本国内勤務者に適用される制度以外に、駐在員だけに適用される制度を導入している企業はかなりの数にのぼります。ではなぜ社内では決して多くない駐在員に対し、そのような制度を作って適用するのでしょうか。

今回のコラムでは駐在に特有の制度を整備する目的とその具体例について一緒に考えていきたいと思います。
駐在員に特有の制度を整備する目的はおもに以下の8つに整理することができます。
- No Loss No Gain
- 格差補填
- 働き方調整
- 安全対策
- 食生活支援
- 生活の質支援
- 子女教育
- 日本国内生活基盤維持
それではひとつずつ概要を見ていくことにしましょう。
①No Loss No Gain
これは駐在員給与の回でも説明しましたが、駐在員処遇の基本的な考え方のひとつです。海外駐在中については、国内勤務時との実質的な処遇水準を合わせることで、内部公平性を担保することを目的としています。
この目的で適用される具体的な制度としては、留守宅手当や残留家族手当(単身赴任手当)、帯同家族手当などの給与に上乗せされる手当や、国内にいれば当然受けることができる健康診断のための帰国、病気やケガなどの治療を国内同等に受けることを実現するための、医療費補助や旅行傷害保険などがあげられます。
②格差補填
前述のNo Loss No Gainを実現することが原則ではあるものの、現実的には制度で埋められない格差を金銭で補填するのが格差補填制度の目的です。
海外駐在に伴う苦労や不便の補償のための海外勤務手当や、治安・気候・⾷⽣活などの⽣活環境が厳しい地域への赴任に対し支給するハードシップ手当などが代表的です。
さらに会社によっては、現地払い給与は生活費相当分として原則現地使い切りで設定し、せっかく海外で生活しているので、見分を広めてもらいたいという目的でインセンティブ手当などを支給する場合もあります。
③働き方調整
働き方を定義する考え方として「属地主義」というものがあります。
国内外を問わず業務を円滑に遂行するために、現地にフィットする働き方にするというものです。カレンダーや所定就業時間帯、勤務シフト、有休休暇や労働時間管理があげられます。
日本のルールそのままに現地スタッフと違うタイムテーブルなどで働いてしまったのでは、業務効率が悪くなるどころか、感情問題にも発展しかねません。

④安全対策
犯罪や事故のリスクは排除するのが人事管理の基本が、現実的には程度の差はあれ駐在先では治安や生活環境は悪化します。
許容できる範囲であれば、リスク対策を行ったうえで駐在してもらう必要があります。
例えば、公共交通機関がなく、かつ現地の交通事情が劣悪で日本人が運転すると交通事故に繋がるリスクが高い場合などは、運転手付きの社有車を準備することがあります。また、セキュリティの高い外国人向けマンションなどの物件がない地域では、ホテルを長期契約して社宅にすることなどがあげられます。
⑤食生活支援
私たちの食生活は許容度が意外と狭く、味の変化はストレスの一因となります。そこで、日本食の食材調達自体の支援ならびに調達コストを軽減し、食生活でのストレスを軽減するための支援を行います。
駐在員や日系人社会などのコミュニティが存在しない国や地域では、食材の調達すらままなりません。そのような場合は、近隣の第三国に食材調達のための渡航費ならびに休暇を付与したりする企業もあります。また、中元歳暮といった名目で、日本食材を送付するのも同様の目的です。

⑥生活の質支援
国が異なるため、日本の生活環境を実現することは不可能です。しかし、海外駐在は数年間という長期にわたる海外生活となります。生活全般の不自由さをできるだけ解消し、日本在住時のレベルに近づける支援も行われます。
日本からの物資送付補助や一時帰国、さらに通勤や日常の交通手段としての社有車貸与などが該当します。
⑦子女教育
学齢期のお子さんを帯同する場合、教育に関する問題はとても重要です。タイミングを逸することなく適切な教育を受けさせるため、格差是正ならびに上乗せコストを補填し、日本在住時の教育水準を維持するための制度を設ける企業は多くあります。
日本人学校に通うことができれば問題はかなり解消されますが、通えない場合には現地の学校に通学することになりますので、日本語補習校への通学や帰国後のフォローアップのための子女教育手当を支給するケースがあげられます。またインターナショナルスクールへの通学を希望し、認める場合には、一定程度追加コストを補助する場合もあります。

⑧日本国内生活基盤維持
多くの企業は海外駐在を期間限定と位置づけていますので、帰任後の生活継続を目的とした支援を行います。
例えば、家財は置いていくケースがほとんどですので、国内残置物保管料の補助を行います。また、持ち家がある場合には、会社が持ち家を借り上げたり、空家にする場合には、メンテナンス費用などを補助するケースもあります。
以上、駐在員特有の制度をご紹介しましたが、どのような制度で支援をしていくかは各社各様です。
制度適用に際しては考え方を整理し、処遇ポリシーを定めることが重要です。
その結果、一貫性のある人事管理が可能となります。
人事制度は会社からのメッセージそのものですので、この点は駐在員特有の制度に限らず肝に銘じておきたいものです。
次回は、出向契約や人件費請求について、お話ししたいと思います。